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今日、私たちのまわりには様々な食物があふれ、スーパーにも、つい十年前には写真などでしか見ることのできなかった食品がならぶようになりました。また、同一食材でも調理や加工技術の進歩に伴いますます美味しくなっています。また、食事の欧米化に伴い、肥満、高血圧、糖尿病等の疾患も増加し、今やこれらの疾病は今世紀の大きな社会問題にさえなろうとしております。
では健康栄養学とはなにを学ぶ学問なのでしょうか?健康や栄養という言葉は最近では、新聞、TVなどを通
じ、日々、まるで洪水のように私達の周りに溢れかえっています。そこで”健康栄養学”を理解してもらうために上の2枚の絵を用意しました。
左はオランダの画家ブリューゲルによって描かれた”怠け者の天国”です。人々が大の字に横たわり、大きく口をあけ、上からパンやソーセージなどが落ちてくるのを待ちかまえています。彼らはもう食物をさがす必要もなく、この絵のようにただ口を開けて待ってさえすれば食物のほうから口の中に飛び込んでくるのです。当時の人々はきっとこのようなユートピアを毎日夢見ていたのでしょう
右の絵(ゴッホ作)は、19世紀のオランダの貧しい農民(土地なし農民)が1日の厳しい仕事を終えた後の晩ご飯風景です。この食卓からは心地よい会話の響きも、おいしそうな食事の匂いも、器のふれあう音もまったく感じとることができません。この絵から感じ取れるのは、重くそして暗い沈黙だけです。普段の私たちの食卓がこんな感じだったらきっとやりきれない思いになるに違いないことでしょう。絵から分かるようにこの晩ご飯のメインディッシュはゆでたジャガイモだけ、右端の女性がコップに注いでいる飲み物はコーヒーではなく、その代用品であるチコリコーヒー(注:1)です。その当時の農民はコーヒーは勿論のこと、婚礼や村の祭りなどの特別
なことが無い限りソーセージやチーズなどは食べることはできなかったのです。
それでは、ジャガイモは当時どのような食物だったのでしょう? ジャガイモの原産地は南米アンデスで、ヨーロッパでジャガイモの栽培が始まったのは16世紀以降であり、気候風土が劣悪の土地でも栽培が可能であり、かつ、貯蔵も簡単だったのです。例えば、国土のほとんどが荒れ地のアイルランドでは土よりも石が多いような土壌ですがそれでもジャガイモを育てることが可能なのです。
その意味で、ヨーロッパの気候風土はジャガイモ栽培にとって理想的だったし、一定面積あたりのジャガイモ生産量は麦の2倍〜3倍もあったのです。また、ジャガイモを丸ごと調理し、皮ごと食べることによって、炭水化物、タンパク質、ビタミンそして食物繊維も含む、栄養学的に「完全食品」に近い食糧だったのです。
このような理由で、ヨーロッパでは、これまでの麦にとって代わってジャガイモの作付け面積が飛躍的に増加し、食卓に日常的にジャガイモが登場することによって、人々は飢餓から逃れることができるようになったのです。このように
じゃがいも栽培が普及することによってヨーロッパの人口は大幅に増加し、18世紀、ジャガイモは貧しい人々の主食となっていったのです。
しかし、農民の大部分を占める土地なしの貧しい農民にとっては、ジャガイモはけっしてごちそうではなく、彼等はジャガイモだけを、皮ごと食べることによって生き抜くことが出来たのです。もちろん、
婚礼や村の祭りなど特別な場合にはのミルク、チーズ、ハムなどを口にすることができたかもしれませんが、1年のほとんどの日はジャガイモだけだったのです。その当時、成人男子が一日に食べるジャガイモの量は、平均で6.4キロにも達したといいます(注:2)。
ヴィンセント・ゴッホは「じゃがいもを食べる人たち」の中で、ブリューゲルが「怠け者の天国」で描いたようなユートピアは実際にはこの世には存在しないことを伝えたかったのではないでしょうか。
しかし、21世紀を迎えた今日、繁栄を続ける西側諸国ではこの逸楽郷は現実のものになりつつあり(注:3)、その代償として生活習慣病といわわれる疾病は増加の一途をたどっているのす。
(注1): チコリの根を粉末にしたコーヒーの代用品。カフェインを含まないので欧米では少なからぬ
愛好者 がいる。
(注2): 参考文献:UP 哀し みの馬鈴薯 アイルランド紀行 (2) 有賀 弘
(注3): 忘れてならないのは、世界のまだあちらこちらで何億という人々がこのゴッホの絵(じゃがいもを食べる人たち)のような状況であるということである。
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